前回、ニホンウナギの稚魚、シラスウナギについて調べたのですが、成長したニホンウナギについての研究が最近発表されていました。

九州大学大学院などの調査ですね。鹿児島県ウナギ資源増殖対策協議会の支援も受けて行われたようです。

夏の丑の日が今年は7月21日と8月2日、2回もありました。この時期の研究発表、今回もウナギに注目してみたいと思います。

そういうわけで、ニホンウナギについて調べてみました。

ニホンウナギの滝登りを突き止めた論文を発表!

7月7日、魚類学の専門誌イクチオロジカル・リサーチ電子版にウナギに関する論文が発表されました。九州大農学研究員の望岡典隆准教授や九州大生物資源環境科学府大学院生の松重一輝さんらのチームが、ニホンウナギは高さ46メートルの滝もよじ登っているという可能性が高いことを突き止めたのです。

もともと「うなぎのぼり」という言葉があるように、ウナギが遡上することは知られています。

ウナギはエラのほかに皮膚呼吸も出来るので、体と周囲が湿ってさえいれば陸上でも移動可能と言われているのです。実際、体長10~20センチほどの稚魚の時、水の少ない岩肌を夜によじ登る姿は確認されていました。

しかし、環境省の調査では、高さ40㎝以上の物があると遡上に支障が出るとされていました。また、河川開発の影響もあり生息数も減少し、その結果2014年に絶滅危惧種に指定されています。

川はウナギが成長する大事な生息地ですが、ダムや堰(せき)が増えたことで環境が悪化していると言われてきました。

そして、これまでの研究では、ダムや堰によってウナギが上流へ遡るのを妨げるのは高さが基準となると考えられていました。

しかし、これらの人工的構造物も形を工夫すれば、高さがあってもウナギが川を遡ることが出来、減少を食い止められるのではないかということが今回の研究で明らかになったのです。

望岡准教授によると、ウナギは華厳の滝(栃木県日光市)を登っていると言われてきたそうです。

ただ、華厳の滝の場合は上流で放流をしていることもあり、科学的に滝の上の川にいるウナギが滝を遡ったものなのかどうか確認されていませんでした。

しかし、2018年夏、鹿児島県姶良市(あいらし)の網掛川でニホンウナギの生育状況を調べたところ、滝の上流3地点で合計7匹のニホンウナギを確認したそうです。

この時、流域にある龍門滝は、ほぼ垂直で高さ46メートルでした

この高さは、ウナギが上流に遡るのは無理だろうと考えられる値でした。しかし、上流で確認されたウナギの体長は20~66㎝、推定2~5歳と多様だったこと、また、地元漁協の協力を得て調べましたが、過去に上流でウナギを放流したことがなかったとのこと、そして体色や大きさから判断して、海から遡上した天然のニホンウナギと結論付けられました。

龍門滝の岩肌には細かい亀裂があり、コケも生えています。

そのためコンクリートより登りやすく、ウナギにとっても途中で休憩しやすいとみられています。

ウナギはサイズが大きくなるほど移動性が落ち、一つの所にとどまるようになります。このため遡上するのは小さいウナギになりますが、彼らはでこぼこして湿っている壁をよじ登ることが出来るので、龍門滝はウナギに適した構造だったと考えられます。

ただ、人間が滝には近づくことが出来ず、今回は残念ながら実際にウナギが登る姿そのものを直接観察することはできませんでした。

46mも高いところまで登ったというウナギの能力は今まで誰も確認していなかったので、大変驚くべきこととして受け止められています。

今回の研究によって、ダムや堰はどれだけウナギが川を遡るのに障害となるのか、高さ以外に壁面がどれだけでこぼこしているかということも重要であることがわかりました。

つまり、高低差のあまりない堰でも、構造次第ではウナギが遡ることが出来ない、といった可能性もあるし、今回のようにその逆もあり得るということです。

そしてこの事実を受け、望岡准教授は「高いダムや堰も形状を工夫すれば、ウナギの生息域を広げることが出来るのでは」と話しています。

今後は高性能カメラなどで滝を上る姿を直接観察し、かかった時間やよじ登り行動の成功率、登る道筋などを調べて、ウナギの遡上形態の解明につなげていくとのことです。

そして、ウナギが川を遡るのに障害となるような構造物を検出して、ウナギが上流に行きやすいようにすることで、ウナギの減少を食い止められると期待もされています。

まとめ

日本人が食べるウナギは養殖がほとんど、天然のウナギは全体の1パーセント程度と言われています。

しかし、日本人の食文化を支えるウナギの生育環境に少しでも配慮し、整備していくことは大切です。それによってウナギの住む環境だけでなく、私たちの食環境も進化するのではないでしょうか。

今後の研究もまた楽しみです。