「世界一幸福な動物」と呼ばれるカンガルー科のクオッカ4匹が、7月1日から埼玉県こども動物自然公園(東松山市)で公開されています。

生息地のオーストラリア以外では世界で初めての飼育展示となるそうですね。

オーストラリア以外ではここでしか見られないなんてすごいですね!しかも絶滅が危惧される希少種なのに、なぜ埼玉で見られるのでしょうか。気になったので調べてみました。

どんな動物なの?


クオッカは西オーストラリアの固有種で、森林や湿地などに生息しています。

「クオッカワラビー」と呼ばれることもあります。体長39~54センチ、尾長23~31センチ、体重は1.6~4.2キロの有袋類です。

葉っぱや木の実が大好物で、野生種は木の下で過ごすことが多く、特にお気に入りの木の下に何匹かで集まっているようです。本来夜行性で、夕方前から翌朝にかけて活発に行動します。

いつも笑っているような口元なので、「世界一幸せな動物」と呼ばれています。

野生のクオッカは、オーストラリア南西部、ロットネスト島、バルド島などに分布しています。特に野生種の生息数が多いロットネスト島は、クオッカを一目見ようとする観光客の旅行先として人気があります。こちらでは、間近で観察したり、一緒に写真を撮ったりすることができます。しかし、エサをあげたり触ったりすることは禁止されています。

貴重な動物に埼玉で会えるのはなぜ?

今回埼玉にやってきた4匹も、オーストラリアからやってきました。

譲渡の条件とは

国内の動物園が新たな動物を迎える場合、一般的には野生動物の国際取引を規制するワシントン条約に抵触しないよう、海外の動物園から無償でもらい受けます。

ただ近年は、動物園が動物本来の能力を発揮できるようにする動物福祉の考え方を実践しているか、種の保存と調査研究に貢献しているか、といった点が重視されるようになっており、譲渡のハードルが高くなっています。

日本の動物園は規模の小さいところが多く、動物1頭あたりの飼育面積が欧米と比べて狭い、といった飼育施設の大きさや構造が条件を満たさないと判断されることがあります。

また、譲渡される動物の野生種を保護するための基金への拠出が条件となることも多く、公立が多い日本の動物園の中には、自治体の理解を得られない場合もあるそうです。

動物の譲渡はこのように厳しい条件があります。しかし、埼玉県こども動物自然公園の田中理恵子園長(56)は18年前にスタッフ3人とロットネスト島を訪ねて以来、クオッカの展示を目指してきました。

今年5月が開園40年ということもあり、その記念展示の目玉としてクオッカに白羽の矢を立て、それに向けて努力を重ねました。

2018年5月にオーストラリアを再訪し、「オーストラレーシア動物園水族館協会」の会長や政府職員らと面会し、クオッカの譲渡に理解を求めました。

クオッカを迎え入れるためにしたこと

同園は東京ドーム約10個分の広さがあるので、飼育面積の世界基準は満たしています。また、34年前には埼玉県と友好都市にあるオーストラリア・クイーンズランド州からコアラ6頭を譲り受けていたほか、カンガルーの仲間だけで8種類の動物を飼育してきました。オーストラリアから視察に訪れた動物園関係者からも、エサの管理や温度・湿度などの飼育環境を高く評価されてきたといいます。

これらの実績に加え、園内にオーストラリア先住民のアートを展示し、オーストラリア文化を宣伝していることもアピールしました。さらにクオッカの繁殖を目指していることも訴えた結果、現地のフェザデール野生生物園からオスとメス2匹ずつの譲渡に同意を得ることが出来たそうです。

また、オーストラリア政府の基準を満たすため、クオッカのためにエアコンと床暖房完備の飼育舎を約2千万円で建設しました。加えて、キツネなどの害獣からクオッカを守るためフェンスを三重にしたほか、運動場に日陰も設けました。

クオッカを迎え入れて

日本動物園水族館協会の成島悦雄専務理事も、「すごく高いハードルを乗り越えた」と評価しています。

氏は、「きちんとした環境で種を保存し、繁殖や研究が野生種の保存にもつながるかが重視されている」と指摘、「貴重な動物がいるという動物園の魅力を次世代につなげていかなければならない。動物保全は地球環境を守ることに行き着く。動物の観察を通じて、人間がいかに動物のすみかを奪ってきたのかにも気付いてほしい」と語っています。

園にとっても、クオッカの飼育・公開は楽しみであると同時に、オーストラリア外で唯一飼育されることになる、ということに対して責任と重圧を感じているようです。

寿命が約10年のクオッカですが、今回譲渡されたのは3~8歳で、繁殖も視野に入れています。繁殖の成功は将来新たにクオッカを譲り受ける際の重要な要素ともなります。

そのような背景も頭に入れたうえでクオッカに会いに行ってみると、また違ったものが見えてくるかもしれません。

まとめ

3月13日にカンタス航空機で来日していた4匹は、新型コロナウイルスの影響による休園中に少しずつ新しい環境に慣れていったようです。

当面の間観覧は平日のみで1人10分、整理券が必要となっています。

整理券は、開園から10時30分まで配布、1日120枚です。

 園長は、「かわいらしさを楽しむのと同時に、クオッカがなぜ『希少種』になってしまったのかを考えるきっかけにもしてほしい」と期待しています。

珍しい動物に癒されるだけでなく、人間と動物とのかかわりについてあらためて考えてみてはいかがでしょうか。