兵庫県三木市の2階建て家屋で、劣悪な環境の中多くの犬を飼育していたとして、6月28日までに住所不定の会社員男性(55)が動物愛護法違反(虐待)の容疑で逮捕されました。
男は「飼育に最適な環境ではないが、エサや水は与えていた。虐待とは思っていない」と容疑を一部否認しているようです。
犬たちはどんな状態の中にいたのか、なぜ多頭飼育になったのか、気になったので調べてみました。
逮捕に至った経緯
近所の住民によると、この家は空き家で、犬が飼われ始めたのは10年ほど前からとのことです。8年ほど前から複数の犬が屋根や外を出入りするのが目につき始めました。5~6年ほど前にはハエや蚊、ゴキブリ、ネズミも徘徊するほどになったようです。犬の糞尿がエサになるのか、ムカデやゴキブリ、野良猫や小鳥も近寄ってきていました。
容疑者はもともとこの家に住んでおらず、2、3日に一度エサと水をあげに軽自動車で通っていたようです。近隣住民が悪臭の苦情を訴えると、「10匹しか飼っていない」と語り、素直に話は聞くものの行動が伴わず、掃除も犬の散歩もしようとしていませんでした。
また、エサやりも、ドッグフードの大袋(内容量8キロ)の口をちぎって室内に置き、大きなタライに水を張るだけでした。犬たちは毎日エサを食べられずにいて、窓を這っているシロアリを舐めている姿を近所の人は見かけたほどでした。
県動物愛護センター三木支所によると、今年4月から「犬が外に飛び出していて危ない」といった相談が寄せられていました。センターは男に立ち入り調査への協力を何度か依頼しましたが、拒否されていました。最後には警察が介入、24日、排せつ物のたまった家屋で犬66匹を飼って虐待した疑いがあるとして男の逮捕に至りました。
犬たちの状況は?
床は犬の糞尿や体毛、エサの残りが数トン堆積しており、膝くらいまでの高さの所もありました。電気を止められている暗闇の中、防護服や長靴、マスクなどを装着して警察官や行政の職員が室内に踏み込みました。彼らの長靴は糞尿にまみれたそうです。
そんな中ウンチで汚れた犬を救出、1匹ずつ写真を撮影し、体重を計って保護しました。保護されたものの太陽の光がまぶしすぎるのか、足元がおぼつかない状態の犬もいたようです。
警戒心の強い犬が多く、66匹の救出は数日に及びました。犬たちは汚れていたものの、幸いなことに健康状態に問題はありませんでした。
どうしてこんなことになったの?
この家屋の状態は長年問題視されてきましたが、空き家の所有者はこの容疑者ではありませんでした。そのため、男には「犬のエサやりを頼まれているだけ」と言い逃れされてきたそうです。
もともとは、容疑者の会社の上司という男性と妻、精神疾患を持つ娘さんとの3人がこちらで暮らしていました。しかし妻が入院し、上司も体調を崩してしまいました。容疑者は同じ会社の部下ということで娘さんの面倒を頼まれた、と家に入り込むようになりましたが、夫妻が亡くなった後、娘さんが5~6年前に入院してしまいました。
そして「飼い犬の面倒を頼まれた」といって出入りしていたようです。娘さんが家にいたころ、中型犬1匹だけを飼っていたのですが、いつの間にか増えて世話をしきれなくなり、男は住居を捨てて通いながら世話をするようになっていたのです。
全国で相次ぐ多頭飼育の問題
三木市のこの事件と同じ6月、京都府八幡市でも動物保護ボランティアをしている50代の女性宅で犬や猫数十匹が死んでいるのが見つかっています。
最初は適正頭数を飼っていたものの、不妊手術を行わないまま無計画に飼った末、飼い主の予想を超えて異常繁殖が繰り返され過剰多頭飼育となり、経済的に破綻して飼育放棄に近い状態になることが多いようです。全国各地でこの問題が起きています。
糞尿の垂れ流し、エサ不足、病気、餓死、共食い、害虫やネズミの発生、鳴き声による騒音、悪臭などが発生し、動物虐待や近隣トラブルとなるケースがほとんどです。飼い主の孤独死や、病気などで放置される場合もあります。
日本では飼い主側の問題として、動物への過度な愛着や、精神的な疾患などが疑われる傾向にあるとのデータも出ています。
近年このような問題が増えているのを受け、国が昨年6月、動物愛護法を改正し、同法が先月1日に施行されました。飼育密度が著しく適性を欠く状態でペットを飼うことなどを虐待例として明記しています。
ペットを飼う場合は、まず自分がペットを飼える状況にあるのか考える必要があります。「自分が寂しいから」「ペットがかわいいから」と安易に考えて飼い始めるのは無責任と言えます。体力、環境、お金、時間に余裕があってはじめてペットも飼い主も幸せになれるのではないでしょうか。
まとめ
今回保護された犬たちは男が動物愛護団体へ譲渡する意向を示したため、複数の団体に引き渡されたそうです。放置された生活を続けてきたせいか、野犬よりも人に慣れていない犬もいる中、少しずつ元気になり成長しているようです。
多頭飼育をするつもりがなくても、きちんと管理しないと飼えない数になってしまうことがあります。ペットを迎える一人一人が命を扱うことを改めて肝に銘じる必要があります。
40代の主婦兼ライターです。ネコは家族がアレルギー持ちのため、鑑賞専門ですが、いつも癒されています。
今は夫、中学生と小学生の3人の子ども、ハムスターと生活しています。